最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)186号 判決 1968年5月30日
上告人
清敏章
右代理人
平田政蔵
小野重次郎相続人
被上告人
小野ちい
ほか五名
右六名代理人
曾我貢
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人平田政蔵の上告理由について。
被上告人らの被相続人小野重次郎は売買により本件土地等の所有権を取得し、その引渡をも受けたものである旨、および右のような状況にある土地につき、右重次郎不知の間に、上告人は訴外富士宮信用金庫のため根抵当権および地上権の設定登記をし、その後に本件売買の残代金の催告をしたものである旨の原審の認定は、挙示の証拠により是認できる。かかる事実関係の下においては、契約当事者は信義則に従い、相手方が契約所期の目的を達するよう努める義務があるものであるから、本件土地が右のような状態にある場合においては、右重次郎が上告人の催告に応じて残代金を支払つても、右根抵当権および地上権が設定されているため、将来所有権を失う等不測の損害を蒙るおそれがあるので、本件契約解除の前提たる前記催告は、信義則に反する無効のものというべきである旨の原審の判断は、正当と認められ、原判決には所論の違法はない。
論旨は、ひつきよう原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を争い、または原審の認定に副わない事実関係を主張し、これらを前提として原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官公員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)